おマメちゃんの大冒険


 空がうすい桃色に輝いてきました。空豆の形をしたピンクの
太陽がゆっくり昇ってきます。海も森も公園も建物も、すべてが
ピンク色に包まれます。
私たちが住んでいる地球から、とってもとっても遠い、ロケッ
トでも行くことができない空豆星の朝です――。
 どこの星でも、朝は大変。道路には空豆形の車やバスが行き
交います。会社や学校へ向かう人たちも、みんな空豆の形をして
います。
 だれもが急いでいます。みんな忙しそうです。それなのに……。
”グーグーグー……”
 大きな大きな木をくりぬいて作った部屋にある空豆形ベッ
ドから、大きないびきが。
 「おマメちやん、学校に遅れますよ!」
 朝食を作っているお母さんの声がします。
 しかし、夜更かししているおマメちゃんは、“グーグーグー"と、
イビキで返事。
 豆形メガネをかけたお父さんも呆れ顔。おマメちゃんの家の
毎日の光景です、
 お母さんは、赤ちゃんに豆形のほ乳ビンでミルクを与えなが
ら言いました。
「お父さん、このままたったら、おマメちゃん、怠け者になって
しまいますよ」
「そうだね、立派な豆になるためにも」
 お父さんは、メガネを指で押さえながら、ウンとうなずきました。


その日の晩ご飯は、ピンク色のソースをかける空豆星名物の
もんじゃ焼きです。
 おマメちゃんはもんじゃ焼きか大好物。鉄のヘラを手に、もん
じゃ焼きがグツグツと音を立てて焼ける鉄板の前で待ちかま
えます。
 「おマメちゃん、今日も学校に遅刻したでしょう」
 もんじゃ焼きを作りながらお母さんはおマメちゃんを叱ります。
 「いいの、いいの。ねえ、そんなことより早く食べだいよ]
 おマメちゃんはもんじゃ焼きにくぎづけです。
 「今日は、早く寝るようにしなさい」
 と言われてもおマメちゃんの耳にはもんじゃ焼きが焼ける
音だけ。返事さえしません。
 そんな様子を見ていだおマメちゃんのお父さんは、お母さん
を見ると、テーブルの横にあるボタンを押しました。
「さあ、できたわよ」
 とお母さんが言う前に、待ちきれないおマメちゃんは、もん
じゃ焼きを食べようと小さな鉄のヘラを伸ばしました。
 その時でした。もんじゃ焼きにおマメちゃんの腕から体全体
がどんとん吸い込まれていくではないですか。
 なんと、もんじゃ焼きを焼いていた鉄板は、異次元につながる
入口だっだのです。
 この空豆星では、立派な豆になるために、いろんな星を冒険旅
行しなければならないという決まりがありました。いろんな冒
険した豆だけが一人前の空豆星の大人になれると信じられ
ているのてす
 両親は、大人になろうとしているおマメちゃんに冒険させる
ことに決めたのでした。


 おマメちゃんが目を覚ましたところは深い深い森でした。
 そうです。おマメちゃんがワープしたのは、空豆星よりも、遠
いところにある森だけの星、フォレスト星だったのです。
 高い木々からようやくもれるわずかな光。しかも空豆星のよ
うに優しいピンク色の光ではありません。
 葉がすれ合う音がします。そのたびに、おマメちゃんはビクビ
ク。手にしいる小さな鉄のヘラがブルブル震えます。
悪いことばかりしていたから、どこか知らない星に飛ばされ
てしまったんだ……」
 おマメちゃんの目から涙がポロリ、ポロリ……。しまいには声
を出して泣き出してしまいました。
何時間、泣いたのでしょうか。おマメちゃんの足元には、水た
まりが。
 もう涙が涸れたころでした。素敵な笛の音色が聞こえてきま
した。それに引きつけられるように、おマメちゃんは歩きだしました。


 聞こえてきたのは、おマメちゃんがいた場所から、少し離れた
木の根元に座っている女の子が吹いていたたて笛の音色でした。
 その女の子はちょっと変わっていました。空豆星の人のよう
に豆形ではなく、地球の人間に似た姿。しかも、目の部分には、ピ
ンク色の仮面。そこから束ねた髪がぴょん、ぴょんと飛び出して
いるのです。
 ピンク色のTシャツにジーンズ姿。おマメちゃんよりも、ちょ
っと年上でしょう。
「どうしたの、こんな森のなかで」
 女の子か優しく声をかけます。
 お母さんの言うことを聞かなかったから、僕、迷子にされてし
まったんだ。これからはちゃんと言うことを聞くから、空豆星に
帰りたいよ」
 真っ赤な目で話すおマメちゃん。
「なんだそんなことね。私は魔法便いのニイニイ仮面なのよ。で
も、払の魔法でも、空豆星までは、行けないわ……。う−ん……。
 そうだ! あなたが持っている鉄のヘラ、それをロケットに
してあげるから、それに乗って空豆星に帰ればいいじゃない」
「え、本当? そんなことができるの?」
 おマメちゃんは、ぎゅっとヘラを握りしめました。
 ニイニイ仮面がたて笛を吹きだすと、
「ピ・ピ・ピ、ピ・ピ・ピ・ピ〜」
 と不思議なメロディを奏で始めました,
 おマメちゃんか手にしていたヘラが、ボンと手から飛び出し
て、辺りには白い煙が。その煙が消えるとそこにはヘラ形の銀色
のロケットがありました!
 「あれれ〜、変だわね。きちんと魔法をかけたのに大事なハン
ドルとエンジンがないわね。おマメちゃん、それは君が冒険して
手に入れなくてはいけないみたい」
 ニイニイ仮面は、そう言うと、分厚い魔法の教科書を取り出し
て調べ物を始めました。
 「え、え、そんな〜」
 またもやおマメちゃんの目には、涙か溜まりかけてきました。
「え−とね、このロケットに必要な物は……、どんなところへで
も行けるリンゴ形のエンジンと、迷わずいけるサンゴのハンドル。
 え〜と、この魔法の教科書によると……。おマメちゃん、運が
いいわよ。リンゴ形エンジンは、このフォレスト星に住む毛ムシ
さんたちが持っているんだって」
「毛ムシ! 僕、毛ムシなんか大嫌いだよ」
「そんな悲しそうな顔をしないで、ほら、ニイニイ仮面が一緒に
いってあげるから」
 その言葉に、ようやくおマメちゃんの顔に笑みがこぼれました。


 いつまで歩いても、森、森、森……。そんなフォレスト星を歩い
ているおマメちゃんとニイニイ仮面です。
 毛ムシたちは、暗い森の奥の奥。そこにある大木の枝にぶら下
がっていました。
 その毛ムシのすごい数におマメちゃんは、今にも逃げ出しそう。
「こんなことで逃げないの!」
 ニイニイ仮面は、おマメちゃんを励まします。おマメちゃんは、
勇気を振り絞って、でも毛ムシを見ないように、小さな声で、
「毛ムシさん。あなたたちが持っているリンゴ形エンジンが欲
しいんですが……」
 枝からスルスルと1匹の毛ムシが下りてきて言いました。
「そんな簡単には、僕らの大事なリンゴ形エンジンは渡せないよ」
 もう1匹が下りてきて言いました。
「そうだな、歌が好きな僕たちを感動させてくれたら、考えよう]
 そこでおマメちゃんは、空豆星で流行している『ザ★ビーン!』
を小さな、小さな声で歌いました。
「なんだよ、そんな歌じゃ、全然ダメ!」
「そうだ、そうだ。出直してこい!」
 一斉に毛ムシたちが合唱しました。
 その声に、逃げ出してしまったおマメちゃん。追いかけてきた
ニイニイ仮面に励まされ、なんとかリンゴ形エンジンを手に入
れるため歌の特訓が始まりました。
 何回も何回も練習しました。何度も何度も毛ムシたちの前で
歌いました。でも、なかなかOKはもらえません。
 ニイニイ仮面も首を傾げます。
 「う−ん、練習では上手く歌えるのに、毛ムシの前ではなんでダ
メなんだろう」
 おマメちゃんも、うなだれてしまいました。2人が下を向いて
落ち込んでいると、足元を小さなカボチャの馬車が通りかかり
ました。その馬車から女の子か降りてきました。
 「私はこの星に住むパンプキンという妖精です。毛ムシさんたち
の前で歌う君たちをずっと見ていましたよ」
 おマメちゃんは聞きました。
「ねえ、なんて僕の歌はダメなんだろう?」
「君の歌を聞いていても、なんだかエンジンが欲しいだけて、た
だ歌えばいいようにしか聞こえないわ。しかも、嫌いな毛ムシだ
から、早く終わればいいと思っているでしょう」
 ニイニイ仮面が手を打ちながら言いました。
「そうだよ! いい歌を聞いてもらおうという気持ちがない
んだよ。パンプキンちゃんの言うとおり。そんなに毛ムシか嫌い
なら、みんな栗だと思って歌えばいいのよ!」
 ニイニイ仮面とパンプキンちゃんによる歌の特訓が続きま
した。それから何回目の挑戦でしょうか……。
おマメちゃんは、ようやくリンゴ形エンジンを手に入れました。
 でもそれを手にしたとき、おマメちゃんは、エンジンのことな、
んか、すっかり忘れていました。毛ムシたちに、いい歌を聞いて
欲しいという思いだけだったからです。
気がつくと、おマメちゃんの歌を聞き終えた毛ムシたちはみ
んな涙を流していました。


「次はサンゴのハンドルね。それは隣の星アトランティス星の
オクトー姫が持っているそうよ。でも手に入れるのは大変……」
 ようやくエンジンを手に入れたおマメちゃん。ニイニイ仮面
は魔法の教科書をめくりながら、話し続けます。
「とにかく行ってみるしかないね」
 ニイニイ仮面は、魔法のたて笛を吹きました。
 アッという間に2人は白い煙に包まれました。気がつくと、そ
こは海の中でした。
 そうです。ここはアトランティス星。海しかない星です。
 おぼれかけたおマメちやんですが、ニイニイ仮面がすぐに魔
法をかけて、ボートを作ってくれました。鉄製のヘラを、今度は
オール代わりにして、あてどなくこぎだしました。
 しばらくすると、サンゴのリボンをしたピンク色の岩が現わ
れました。
「こんなところで何をしているの?」
「僕は、この星のオクトー姫のところに行って、サンゴのハンド
ルをもらおうと思っているんだ。それを便えば空豆星に帰れる
んだ」
 ピンク色の魚は、ヒレをピンと立て言いました。
 「サンゴのハンドルは、オクトー姫を美しいとほめた人じやな
いともらえないの。
 以前までは、オクトー姫も、自分がとても美しいことをわかっ
ていたから簡単だったわ。でも、ある日、大失恋をしてしまって
から、突然自分は、とても醜いんだと恩い込んでしまうようにな
ったの。それからは美しい、キレイと何度言われようと、決して、
サンゴのハンドルを出すことはなくなったの……。
 オクトー姫の自信を取り戻せたら、もらえると思うけど、難し
いわよ。
 私が姫のところまで案内してあげるわ。私はピンキー。よろし
くね」
 ピンキーちゃんのサンゴのリボンを頼りに、ボートをこいで
いくおマメちゃんたち。しばらく行くと大きなお城のような島
が見えてきました。
 「あの島がオクトー姫の住むお城。さあ、ここからは私はついて
いけないわ。頑張ってね」
 ボートを降りたおマメちゃんとニイニイ仮面は、ゆっくりと
お城に入っていきました。


 「おまえたちは誰なの?」
 2人が入口に立つと、城内に響きわたるような声がしました。
その声は、とても恐ろしく、おマメちゃんは震え上がってしまう
ほど。ブルブルとしたおマメちゃんの手をニイニイ仮面はしっ
かりと握りしめ、
 「そんなことでは空豆星に帰れないよ!」
 と、励ますように言いました。
 「うん、わかったよ」
 長い廊下を恐る恐る歩くと、大広間に出ました。そこには、大
きな大きなピンク色のタコが、椅子に座っていました。
 「誰だい、何の用だい?」
 オクトー姫は、大変、不機嫌そうでした。
 「あの〜、僕は、サンゴのハンドルを……」
 おマメちゃんは、オクトー姫の吸盤がついた8本の足からま
ん丸な頭までをゆっくりと見上げました。
 「うわ〜」
 突然、1本の足がビュンっと伸び、口をとがらせたオクトー姫
が、おマメちゃんの話をさえぎります。
 「おまえはどうせ私を醜いと思っているんだろう! とっと
と出て行きな!」
 大きな足の、大きな大きな吸盤が目の前に迫ってきました。
「きゃ−」
おマメちゃんとニイニイ仮面は、急いで、お城の外まで逃げ出
しました。
 お城の前の海では、心配そうな顔をしたピンキーちゃんが待
っていました。
 「やっぱりダメたった」
 あまりにビックリして呆然としたおマメちゃんが言いました。
 「ハアー、ハアー、ピンキーちゃんが美しいと言うからどんなお
姫様かと恩ったら、へんてこりんなタコなんだもん。びっくりし
ちゃったよ」
「でも、それだったらサンゴのハンドルは手に入らないし……」
 腕を組んで考え込んでいたニイニイ仮面も困った顔です。
「オクトー姫が幸せだったときは、いつも恋人と一緒にダンス
をしていたわ。それは本当に幸せそうにね。とても美しかった。
 でも、恋人にフラれてしまってから、パッタリと踊ることをや
めてしまったの」
 ピンキーちゃんが話してくれました。
 「そうだ! じゃあ、おマメちゃん、ダンスを踊って励ましてあ
げたら、オクトー姫も自信を取り戻すんじゃないかな」
 ニイニイ仮面は、おマメちゃんの手を取り、ダンスの練習をし
ようとしました。
「ダンスなんて嫌だよ。それにどうしたってオクトー姫は美し
くなんかないもの!」
 おマメちゃんは、面倒臭そうに言いました。「ほらほら、空豆
に帰れないぞ。ダンスの衣装を魔法で作ってあげるから」
 ニイニイ仮面が振付を考えました。ピンキーちゃんは、オクト
ー姫が得意にしていたダンスを教えました。でも、おマメちや
は、あまりやる気がないみたい……。
 それでもなんとか踊りを覚えたおマメちゃん。再度、オクトー
姫のいるお城に入っていきました。
 「また、あなたなの。今度は何の用なの」
 オクトー姫の大きな声に、圧倒されそうなおマメちゃんです
が、勇気を出して言いました。
 「オクトー姫、あなたに踊りをプレゼントします。見てください」
 オクトー姫の前で、ニイニイ仮面の笛の音に合わせて、おマメ
ちゃんはダンスを始めました。
 ダンスを途中まで終えたときでした。
 「やめてちょうだい。そんなダンス見たくもないわ。早く出てい
ってちょうだい!」
 またしても長い足を伸ばして、オクトー姫はおマメちゃんた
ちを城の外まで追い出してしまいました。
 「あ〜あ、あんな気持ち悪いオバケに、僕の気持ちなんか伝わら
ないよ。それに、美しいなんて思えないよ。
 ねえ、ニイニイ仮面、魔法でハンドルを作ってよ!」
 おマメちゃんが甘えた声で言うと、ニイニイ仮面は怒って言
いました。
 「あんな踊りをしていたら、誰だってやめてというわよ。第一、お
マメちゃんは、自分で踊っていて楽しいと思ったの? 思っても
いないのに、見ている人が楽しいわけないじゃない。もう知らない!」
 ニイニイ仮面にきつく叱られたおマメちゃん。目には涙がジ
ワーっと……。でも、ぐっとこらえました。
 「わかったよ、僕は空豆星に帰るために頑張るから、特訓して!」
 その言葉を聞いて、怒っていたニイニイ仮面も、さっきまでの
優しい顔に戻りました。
 特訓は大変でした。おマメちゃんの足にはマメができたほど。
でも、難しいステップも覚えました。リズム感もよくなりました。
 さあ、いよいよ、オクトー姫に挑戦です。
 いつものように、不機嫌そうなオクトー姫。
 「もうやけくそだ。自分が楽しめればいいんだ」
 おマメちゃんはそう自分に言い聞かせ、ニイニイ仮面の笛に
合わせて踊り始めました。
 最初は、そっぽを向いて足で頭をかいていたオクトー姫です
が、踊りが始まると、1本の足がリズムを取り始めました。その
足が2本、3本……、とうとうオクトー姫は、8本の足でリズム
を取り始めたのです。
 そしてとうとう最後には、椅子から立ち上がり、8本の足を器
用に使い踊り始めたのでした。その動きはとても美しいもので
した。               
 踊っているおマメちゃんは、一緒にオクトー姫が踊ってくれ
たことで、もっともっと楽しくなりました。そして思いました。
“あ〜、オクトー姫の踊り、それに8本の足、とてもキレイだ"。
 そして思わず、
 「オクトー姫、キレイですよ」
 と、一言。
 その瞬間でした。オクトー姫の足の先から、サンゴでできた
ハンドルが出てきたのです。
 「オクトー姫、ごめんなさい。最初は、あなたのことが美しいと
思えるわけがないと思っていたんだ。でも、ホントは、どんな人
にだってあるんだよね、美しいところが。それに気がつかなかっ
たよ。本当にありがとう」
 「いいえ、こちらこそ。私にはこんなにキレイに踊れる8本足が
あったことを、君は思い出させてくれたんだもの。それをほめて
くれたでしょう。お礼を言うのはこちらよ。どうもありがとう」


 もんじゃ焼きのヘラロケットは空高く飛び上がりました。そ
のロケットから、大きな声が聞こえます。
 「ニイニイ仮面、パンプキンちゃん、毛ムシさん、ピンキーちゃ
ん、オクトー姫、みんな本当にありがとう」
 ハンドルを握るおマメちゃん。ちょっとりりしくなったみたい。
○おわり○


あとがき
メンバーになれた頃を思い出して書きました。
歌や踊りを優しく教えてくれた先輩たちをニイニイ仮面に、
励まし合った麻琴ちゃん、あさ美ちゃん、愛ちゃんを
キヤラクターにして登場させました。
読み返すと今でもなつかしいですね。